「ピタジュマジック」カウントダウン企画“ピタジュが出来るまで”

ピタジュ結成秘話“ピタジュが出来るまで”

※このストーリーはピーターパンJr.の結成までに迫る連載企画です。2017年の現在進行形の話ではありません。登場する人物、ストーリーは全て過去のエピソードです。ピーターパンJr.のリーダーTAKUROを主人公としてお話を進めて参ります。

 

☆第十四話「運命の選択を」

“ピーターパンJr.”

挑戦する心を忘れないピーターパンの意思を受け継ぐものという意味を込めて付けられたこの名前で、グループとして歩んでいくことを決めた僕たち。

グループにとって必要不可欠な名前が決まれば、次に必要なのは出航日。僕たちが航海に旅立つのはいつなのか。それを決める必要があった。

ソロプロジェクトとの折り合いや、引越しの手続き、その他の挨拶回りなど、神戸から東京へと移り住むNissyanがグループとして活動を開始するには最低でも数ヶ月の時間が必要だ。現実的な問題も考慮し、僕とDANはピーターパンJr.の本格始動を2015年の5月と定め、それまでに出来る限りの準備と土俵作りをしようと誓った。

そして決まった5月10日、この日を「ピーターパンJr.」の出航日とした僕たちは、クリタ君名義でのお披露目イベントを打ち出すことにした。

そうなれば自然と必要になってくるのは“オリジナル楽曲”

再び僕たちは、路上ライブでチケットをお届けしながら楽曲を制作する。という本来の暮らしに戻った。

しかし、以前の手探り状態のクリタ君の時とは違い、グループを組むに当たってしっかりとした“活動方針”を掲げていた僕たちは、楽曲の方向性が定まるのも早かった。

“求心力のある音楽”をテーマに楽曲を制作し、自分たちの音楽で聴いてくれる人の日々の悲しみや苦しみを少しでも取り除くことは出来ないだろうか、そうしてピーターパンJr.のオリジナル楽曲としてまずはじめに作られたのが「Message」というナンバーだった。

順調に作曲作業が進んでいく中、路上ライブでのチケット販売も少しずつではあるがお届け枚数を増やしていたそんな時、僕に一本の連絡が入った。

その相手は僕が関西で活動をしていた時、ソロCDのレコーディングなどでお世話になっていたVNOさんというエンジニアの方だった。どうやらVNOさんは今年から活動拠点を関西から関東に移すという。それにあたって関東で活動している僕に、上京の報告をしてくれたのだ。エンジニアとして絶対的な信頼をおいていたVNOさんの思いもよらぬ上京に、僕は心を弾ませた。上京前に関西で婚約相手との挙式を済ませるという話を聞いた僕は、是が非にでもと結婚式への参列を申し出た。懸命に音楽活動に取り組む僕を気遣い、あえて招待状を送るのを控えようとしていたというVNOさんだったが、僕からのこの申し出には喜んでOKをしてくれた。CD制作に欠かせないレコーディングエンジニアのVNOさんの上京はこの時の僕にとって何よりの嬉しい報告となった。

それから月日は流れ、Nissyanにも神戸と東京とを行き来してもらいながら、徐々にピーターパンJr.は1つのグループとしての自覚を育んでいった。楽曲のテイストはどういったものにするのか、自分たちが今持っている武器とは何なのか、星の数ほどいる他のグループとどうすれば差別化出来るのか、路上ライブをしてはミーティングを繰り返し、楽曲をメンバーに聴いてもらっては練り直してを何度も繰り返した。

ようやくチケットのお届け枚数も目標の半分ほどに達した頃、季節はすでに4月を迎えようとしていた。クリーニングから返って来たばかりのスーツに久々に袖を通した僕は、1人神戸行きの飛行機へと乗り込んだ。目的はそう、他でもないVNOさんの結婚式への参列の為だ。これから東京で何度もお世話になるであろうVNOさんの一生に一度の大切な席。心からの祝福を贈りたい。そう思っていた。

しかし神戸へ向かうことが決まってからの僕はというと、実はひっそり“ある計画”を企てていた。それは兵庫県在住の天才シンガーソングライターに楽曲制作の依頼をする。という計画だった。音楽活動をしていく上で、楽曲というのはまさに軸そのもの。確かな楽曲はグループの評判となり信頼になるだろう。そう思っていた僕は自作曲の他に、自分の耳で選んだ色とりどりな楽曲で、ピーターパンJr.というグループを輝かせたい。そう思っていた。久々に僕が関西に帰って来るということもあり、その“天才シンガーソングライター”は二つ返事で僕の誘いを承諾してくれた。朝一の便で神戸に到着し、駅前で彼と落ち合うことになったが、予定時刻より少し遅くなった僕は駆け足で集合場所へと急いだ。そして待ち合わせ場所には相変わらずバッチリ決まったヘアースタイルで“天才シンガーソングライター”のKeisukeが立っていた。

「おう!お疲れ!」

少しと言わずかなり待たせてしまった僕に、嫌な顔ひとつすることなく出迎えてくれるKeisuke。

非常に紛らわしい書き方で困惑させてしまったかも知れないが、僕が待ち合わせをしていた“天才シンガーソングライター”というのは実はKeisukeのことだったのである。Keisukeからユニットの話を断られた後も諦めの悪い僕は何度もKeisukeに上京の話を持ちかけていた。勿論その度に断られてしまっていたが、どうしてもその作曲能力の高さを諦めきれなかった僕は“せめて楽曲だけでも提供して貰おう”と、そう考えていたのだ。

合流した僕たちは神戸のモザイクという商業施設内にあるビュッフェ形式のレストランへと腰を下ろした。メインのメニューを一品選んだ後、ビュッフェ台からサラダやチキンなどを盛り付けると、僕はこれまでの経緯、三人で結成したピーターパンJr.のことなどを詳しくKeisukeに話した。そして何度も無理な上京の話を持ちかけてKeisukeを困らせてしまったこと、その度にKeisukeの人格や考えを否定してしまったことを改めて謝罪し、いよいよ本題の楽曲制作の依頼へと入った。

「まず、今作ってるMessageっていう曲なんやけど、デモ音源を作ってきたから一回聴いてみて。」

僕が渡したイヤホンを受け取り、黙って楽曲を吟味するKeisuke。一曲を通して確認した後、

「うん、全体的には良い感じやと思うけどBメロとサビの頭がちょっと弱いかな。俺が直すとしたら…」

音楽理論とセンスを兼ね備えた改善案を細かく提示してくれるKeisuke。即座に的確なアドバイスをくれるその姿をみて僕は、やっぱりKeisukeに楽曲を提供して貰うのは正解だなと確信していた。

しかし、

“暖かみがあって、聴く人の心に寄り添えるようなバラードは作れるか?”と続ける僕に、どうした事かKeisukeは

「う~ん」

と急に腕組みをして黙り込んでしまったのだ。一体どうしてしまったんだろう、まさか僕には楽曲は提供出来ないということなのだろうか。確かに僕はこれまで幾度となくKeisukeの考えを否定してしまった。熱くなっていたとは言えKeisukeがそれを快く思っていたとは思えない。しかし僕とKeisukeの関係はそれくらいの事では揺がない。その信頼があったからこそ僕もKeisukeに本気でぶつかったのである。

“勘違いをするような奴じゃ無いはずだが”

そう思った僕は勇気を出してKeisukeに尋ねてみる事にした。

「俺にはもう力を貸す気にはなれない?」

しかしこの後、僕の心配をよそに、Keisukeはとんでもないひと言を口にする。

「はぁ~、こんなことなら俺も一緒にやれば良かったな」

時が止まった。

人は自らの理解を超える出来事に直面した時、こんなにも無力なものなのだろうか、

Keisukeの、思いもよらぬその台詞に僕の思考回路は一瞬にして機能停止状態に陥ってしまったのだ。

“この発言は一体どういう意味だろう。もしかしてKeisukeは僕たちと一緒にグループを組みたいということなのだろうか。”

何とか意識を取り戻した僕は、出来る限りの集中力を使って本当に様々な可能性をKeisukeのそのひと言から導き出した。

そして数十秒間の沈黙の後、数ある選択肢の中からようやく僕が選び出したその返答は

「入る?」

の三文字だった。

僕の言葉に主語が無いことも、話の流れ的にも飛躍しすぎなことも、それは全て分かっていた。そしてこれが何の根拠も無いただの直感である。という事も。

しかし“Keisukeがついに考えを変えてくれたのかもしれない”それだけで、これまでの辻褄や大義名分、今の僕たちの現状など、そんなことはどうでも良くなってしまったのだ。

「行ける?」

と、何とも言えない表情で訪ねるKeisukeに

「俺が言ったら何とかなるから」

と僕は続けた。

端から見ればこの一連のやり取りは、きっと全く理解が出来ない“意味不明なもの”だったに違いない。

Keisukeがどういうつもりで発言したのかも聞かず、直感で本気だと認識する僕。

これまでの話と今回の決意とは別物だという事が、必ず僕に伝わると信じて疑わないKeisuke。

長年の付き合いがある僕たちだからこそ、この最小限のやり取りでも“それぞれの心持ち”を敏感にキャッチ出来たのだ。

ようやく胸のつっかえが取れたのか、そこからKeisukeは今の自分の気持ちを素直に聞かせてくれた。

僕とのグループの話が無くなった後、再びソロとしての歩みを進めようとしていたKeisukeに当時所属していた事務所の社長はこうアドバイスをくれたのだという。

“ライブハウスのスタッフをしてみたらどうか?そこでエンジニアとしての仕事もしながら気長に音楽をするのが良いんじゃないか?”

所属アーティストの将来を思っての親心だということは分かっていたが、その台詞を聞いた時、どこかアーティストとしての限界を暗示されたような気がしたというKeisukeは、このまま生活をする手段として音楽を選ぶなら、一度自分の信じた仲間と悔いの残らないようにプレイヤーとして勝負したい。そう思ったのだという。そんな中、僕が神戸に来るという連絡を受け、一か八か話を持ちかけてみようと思ったのだそうだ。

僕は人生の分かれ道に立たされた時、“直感”を信じることにしている。そこに合理性や論理性などの要素は存在しない。客観的に見ればこれまで何度となく話が流れてしまっていたKeisukeとグループを組むのは“得策では無いのでは”という意見もあるだろう。しかし僕はその時“Keisukeの存在はピーターパンJr.にとって絶対に必要不可欠なものになる”と直感していた。専門学校在学中から群を抜いていたその天才的な作曲能力は勿論のこと、場を和ますムードメイカーとしての気質、そして誰とでも気さくに話すことが出来るコミュニケーション能力の高さ。そのどれもがこれからの僕たちに無くてはならない素質だと感じていた。

そして何より一番の要因は、僕たちの音楽人生最後の勝負になるであろう「ピーターパンJr.」という冒険を、Keisukeと一緒に旅したかったのだ。

もう一度Keisukeを信じることにした僕は

「次は俺だけじゃない。もう後には退けないから。」

そのひと言だけを伝えた。

これまでのことを謝罪し、力強く頷くKeisukeに今後のプランなどの詳細を早口で説明した後、僕は式場へと向かうタクシーへと乗り込んだ。予想外の話の展開に、僕たちの解散時刻は大幅にオーバーしていたのである。挙式ぎりぎりに式場へと到着した僕は、

「帰ったら話したいことがある」

とDANに一通のLINEを入れ、来賓名簿にサインをした。

それから数日後。東京へと戻り、クリタ君の路上ライブでの帰り道で、ついに僕はKeisukeの加入案をDANに打ち明けることにした。神戸でKeisukeと直接話をしたという事。これからの活動にKeisukeという存在がいかに重要であるかという事。この時すでに絶対の信頼関係で結ばれていた僕とDAN。きっと僕が熱い気持ちで説明すればDANはすぐに分かってくれる。この時はまだそう思っていた。

しかし現実はそう甘くない。話し始めて一時間ほどが経った頃だろうか“賛成してくれるはずだ”そう信じて疑わない僕をDANのひと言がさえぎった。

「俺は反対かな。」

「だってKeisukeはたくちゃんの誘いを断ったわけやん、たくちゃんがその時どんな思いだったのか俺は知ってるし、またそうならへん保障は無いし。とにかく俺は三人組みってもう決めてるから。その案は悪いけど無しかな。」

まさに一刀両断、という感じだった。

僕とKeisukeの長年の付き合いだからこそ成立するこの“どんでん返し”は、Keisukeと交流の無いDANにははっきり言って“都合が良いもの”だったのだ。

“ようやくKeisukeが覚悟を決めてくれた”“次は絶対に大丈夫だ”

僕がキャッチしたこの直感は、DANには一切通用しなかったのである。

考えが甘かった。その後だんまりを決め込むDANからは“今後この話は受け付けない”そんなオーラが漂っていた。

「そっか、分かった。」

そう言うしか無かった僕は、なんとか自分の心に蓋をしてDANと解散した。

しかし、自他共に認める“しつこい男”である僕が、そう簡単に自分の直感を諦められるはずは無く。DANはこの後、自分の願いとは裏腹に何度もこの提案を僕から持ちかけられる事になる。

もう何度目だろうか、季節は5月を迎え“お披露目イベント”まで残り10日を切っていたそんな頃、またしても僕は、“Keisukeの加入案”を懲りもせず薦めていた。この頃になると温厚なDANも明らかに嫌悪感を表現するようになっており、僕たちはこの議題を通して何度となく口論を繰り返していた。イベントを目前に控えているというのにまだグループ編成すら固まっていない。こんな異例の事態は僕たちの音楽至上初めてのことだったからだ。

そして、

「もうええわ、ほな辞めよ。こんな状態でグループなんか組めるわけ無い。もう辞めよう。」

ついにその時は来てしまった。無理やり自分の意見を押し通そうとする僕に流石のDANも我慢の限界を迎え、全てを白紙に戻そうと口にした。たやすい覚悟でこんな事を言う人間では無い。この言葉には“旅の終わり”が意味されていた。しかしそう考えていたのは決してDANだけでは無く、僕も同じだった。志にブレが生じてしまった以上。本気で勝負をする事は不可能だ。音楽で成功する、という事はそんな生半可な事では無い。メンバー全員の意思が一つになってはじめて、数パーセントの可能性が生まれるかどうかの本当にシビアな世界なのだ。

全てを失う覚悟で僕はDANにこう伝えた。

「Keisukeの曲を聴いて判断してくれ。それでもダメだったらピーターパンJr.はもう終わりにしよう。」

一週間後の5月7日を“運命の日”とした僕たちは、これからのピーターパンJr.をイメージして作ったKeisukeの楽曲を、4人全員で聴く事に決めた。

“音楽には人となりが表れる”

この先僕たちがどうすれば良いのか、きっとそこで答えは出るだろう。

間も無く上京を控えているNissyanも、“自分で決めた道だから”とこの提案に賛成してくれ、近況を逐一報告し合っていたKeisukeも“俺の全てを賭けて楽曲を作る”と言ってくれた。

本気で勝負をすると決めた僕たちにbetterな選択肢など存在しない。Keisukeも含めた4人組でピーターパンJr.を結成することがbestだと考えてしまった僕にとってそれ以外の方法は打開策だ。そう思う僕が居る時点で3人組でのピーターパンJr.はもうあり得ない。

“結成”か“空中分解か”

運命は全て、Keisukeの楽曲に委ねられることになった。

そして迎えた5月7日。

僕たち4人は僕が住むアパートへと集合した。

自己紹介をする僕たちに笑顔は無い。これは同窓会でもなければサークルの集まりでもなく、これから先のそれぞれの人生を賭けた“一生に一度の決断”なのだ。

神妙な面持ちで向かい合う僕たち。

そしてついに…“運命の瞬間”は幕を開けた。

 

to be continued…